INSIDE STORY

INSIDE STORY Vol.1

二人三脚で
たどり着いた夢の領域

宮里藍プロがデビューしてから今日に至るまで、
彼女のパフォーマンスを
最大限に引き出すボールをつくるために、
彼女とともに取り組んできた14年間を宮川直之が振り返る。

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ブリヂストンスポーツ株式会社
ボール・用品企画部
ボール商品企画ユニット
ボール商品企画担当課長

宮川 直之

ゴルフボール評価を担当していた頃、宮里藍が高校3年生の時に初めて出会い、2004年のプロ宣言後からも彼女と共に新しいゴルフボール開発企画に取り組む。
2012年にボール企画部に異動後も、新商品展開に合わせて、常に宮里藍のテストに立ち会い、意見等を参考に商品を反映してきた。
宮里藍も絶大な信頼を寄せるスタッフの一人。
ゴルフボール評価を担当していた頃、宮里藍が高校3年生の時に初めて出会い、2004年のプロ宣言後からも彼女と共に新しいゴルフボール開発企画に取り組む。
2012年にボール企画部に異動後も、新商品展開に合わせて、常に宮里藍のテストに立ち会い、意見等を参考に商品を反映してきた。
宮里藍も絶大な信頼を寄せるスタッフの一人。
Chapter 1
自らの生命線、
ショートゲームを見据えて・・・

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 私が宮里藍選手と初めて会ったのは2003年7月。まだ彼女が高校3年生のときでした。お兄さんたちが当社ボールを使ってくれていた縁で、ボールのテストをしてもらったのです。
そのころから彼女はボールのことを人一倍考える選手でして、特に風に対する弾道についてのこだわりはアマチュアの域をとうに越えていました。
きっと、いつも風が強い沖縄でゴルフをしていたことが背景にあるんですね。
そのときも「TOURSTAGE UX DIA」というボールをとても気に入ってくれましたが、それまで使っていたボールよりかなり風に強かったことが理由でしたから。
実はそのボールをテスト後、すぐに彼女が使ってくれまして、ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンでいきなりの優勝を飾りました。
当社ボールで高校生がツアー初勝利ということで、すごく彼女と縁を感じました。

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 ただ、「TOURSTAGE UX DIA」には課題も残りました。それはスピン性能です。 実は最初のテストの際に彼女から一つの要望が出ていたのです。「もうちょっとグリーンまわりでのスピンがほしい」と・・・。彼女は後々ずっと「自分の生命線はショートゲーム」と言い続けますが、やはりアプローチスピンは非常に重要なものでした。そこで、彼女の意見を中心にスピンがかかるように改良を加えたボールが「TOURSTAGE X-01 S」です。
プロ宣言後の2004年開幕戦のダイキンオーキッドレディスで、そのボールを使ってプロとしての初戦を見事優勝で飾りました。「TOURSTAGE X-01 S」の開発時に彼女が、アゲインストの中、スプーンでどのくらい飛距離が安定するかを繰り返し試していたのを見て、ほかのプロとは違う感覚を持っているなと思っていましたが、この勝利にあらためて彼女のすごさを感じました。そのような経緯で、彼女と私の二人三脚によるボール開発は始まりました。
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    TOURSTAGE X-01S

Chapter 2
世界で戦うために必要だった、
夢のボール。
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    TOURSTAGE X01 SOLID

 次に私に求められたのは、「飛び」と「止まり」を両立するボールの開発でした。アメリカでプレーするようになった2005~2006年ごろより、彼女からはスピンだけでなく飛距離のニーズも高まり、「TOURSTAGE X-01 H」というツアーボールの中でも硬めで飛距離重視のボールを選ぶことがあったのです。しかし、ショートゲームではスピンをかけ、フルショット領域では逆にスピンを抑えたいという相反する要件のクリアは永遠のテーマともいえる難しさ・・・。当時は単なる夢のボールでした。

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    TOURSTAGE X01 SOLID

 その後約4年の歳月を費やし、満を持して彼女に提供したのが「TOURSTAGE X-01 SOLID」というボールです。硬めのコンプレッションとしながら、表面にはとても軟らかいウレタンカバーを付け、飛距離とスピンの両立に思い切って挑戦しました。このようなボールは以前からトライしていたのですが、特別な工夫がなければ風に弱いなど、欠点の多いボールになってしまうのです。そこで、コアの中心と外側で硬度差を付けたり、構造を工夫したり、いろいろな新素材を入れたりという試行錯誤の末、ようやく完成しました。2010年6月ごろから彼女はこのボールを使ってくれて、ショップライトLPGAクラシックを勝利し、世界ランキング1位に輝きました。当時、彼女は「ボールでこんなことができるんだ!」とこのボールを大絶賛してくれましたが、なんと今でも「TOURSTAGE X-01 SOLID」はすごかったと言ってくれているのです。私の中でも、このボールは一番印象に残っていますね。

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Chapter 3
一切の妥協なく追い求めた、
二人の理想。
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    TOUR B330X

 現在、彼女は「TOUR B 330X」を使用していますが、これも「TOURSTAGE X-01 SOLID」のDNAを受け継ぐボールです。最近は表面への傷つきにくさ、ラフからのスピン性能など、細部の改良に取り組んでいます。これらも彼女からの要望で、ボールとしての完成度はますます高められています。彼女は出会ったときから変わらず率直な意見をぶつけてきてくれて、私はそれをしっかり受け止めてエッセンスとして余すところなくボールに注入してきました。そのようなお互いに妥協を許さない真摯な姿勢があったからこそ、夢のボールにかつてないほど近づけたのでしょう。
ここまで妥協なくボールの開発をしてこられたのは、彼女のおかげだと思っています。

 彼女が引退することを聞いたときは複雑な気持ちでした。この14年間、彼女には常にボールづくりのモチベーションをもらっていたので…。それに、メジャータイトルを獲ることが彼女の夢だったでしょうし、日本人がメジャータイトルを獲れるようなボールをつくることが私の夢で、二人の挑戦はまだ続くと思っていたのです・・・。
しかし、今ではその私の夢は、知らない間に叶っていたのかなと思っています。よく考えてみるとメジャーで勝つよりも世界ランキング1位になることの方がたいへんなことで、その偉業を成し遂げたプレーヤーのボールづくりに携われていたのですから。このラストシーズン、彼女には最後の最後まで頑張って、有終の美を飾ってほしいですね。

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