VOICE B

Special interview FROM TOUR

VOICE 4

木村 明

ボール商品開発部

「タイガーも賛同してくれた自信作です」

— ゴルフボール開発のお仕事について、教えて下さい

ツアーボールの開発は、最初にプロや上級者のニーズを知ることからスタートします。それを掘り下げることが、新しいボールをこういうものにしたい、という開発のコンセプトになるんです。この開発コンセプトを実現するため、材料グループには、こういう材料が欲しいとリクエストを出し、最適な効果が発揮できる組み合わせで配置して、ボール全体としての性能を出せるように開発します。カバーの素材、コアの素材といった材料は、いわば食材です。良い食材を用意して、それをいかに美味しい料理にするかというのが、我々の仕事になります。そのためには、どういうボールが求められているかという、最初のニーズの部分をしっかりと把握しておくことが大事ですね。

— ツアーボールは多層構造になっています。それぞれの層の役割はどのようなものでしょう。

ボールは、あくまでもトータルでの性能が重要なので、厳密に役割を決められないのですが。大まかには次のような役割があります。まず、一番内部のコアは、ボール初速を出す役目で、いわばエンジンに相当する部分です。硬ければ硬いほど初速は出るのですが、硬いだけだと余分なスピン量が増えてしまうので、最終的な飛距離につなげるには、単純に硬いだけではダメです。中間層は、主にフルショット領域で働きます。ドライバーショット領域ではコア同様に初速を出す役割、またアイアンショット領域では各番手のスピン量を適正化する非常に重要な層になります。カバーはアプローチショット領域で働きます。アプローチではカバーが主に影響するので、軟らかく、高スピンなウレタン素材のカバーがグリーン周りでのコントロール性能、打感の面で機能します。

—  ブリヂストンは1935年からボールの製造を行っています。その中で画期的だったボールはありますか?

これまでの長い歴史の中で、実に様々なボールが生まれたのですが、プロが使えるツーピースボールとして人気となった『レイグランデ WF432』は、ゴルフボールの世界で大きなインパクトがあったと思います。80年代半ばに、コアの初速を高める配合技術をいち早く開発出来ていたことで、スピンが利く軟らかいカバーを採用することが可能になりました。近年で特に画期的だったのは、2014年に発売した『TOUR B330シリーズ』から採用されている「ハイドロコア」です。製造工程でゴムに水を加えることで、外側は硬く、中にいくに従って軟らかくなる。硬さにグラデーションをつけられるコアを実現しています。別の実験をしている際に、偶然がきっかけでハイドロコアの開発がスタートしたのですが、当初は、いくつもの不具合があり、最終的に使えるようになるには、かなり苦労しました。しかし、「ハイドロコア」によって、高初速低スピン、更にプロや上級者が好む打感も同時に達成できました。

— 新しい『TOUR B X/XS』も性能に特徴があります

フルショット領域では、ボール内部のコア、中間層を改良することによって、より初速が出しやすくしています。加えて、ウレタンカバーの反発を少し抑えて、アプローチ領域では、スピンがかかりながら、軟らかく、ゆっくり飛んでいくような性能を実現しています。材料グループのひらめきとアイディアで生まれた「リアクティブ・ウレタンカバー」です。このコンセプト自体は、2009年ごろからあったのですが、当時は技術的に難しく、製品化はすぐに実現できませんでした。そこから試行錯誤を重ね、今回、10年越しで完成した自信作になりました。

— タイガー・ウッズも新しいボールを気に入ってるようですね

タイガー・ウッズ選手は、「スピードコントロール・テクノロジー」という我々のコンセプトを、とても良いと賛同してくれました。我々としても、なんとしても彼に使ってほしいので、何度もアメリカに出向いて、テストを行いました。彼は、ほんの小さな違いでも判別して、好き嫌いをはっきりと伝えてくれます。そして、何度テストを行ってもその評価が一貫している。凄い感性の持ち主です。今回の新しいボールは、タイガー・ウッズ選手が「これがいい」と評価したものが、製品になっているんです。単に、飛んで止まるだけではなく、理想的なツアーボールが出来たなと自負しています。

PROFILE

木村 明 プロフィール
1993年入社 ボール商品開発部 所属
TOURSTAGE X01シリーズから現在に至るまで全てのツアーモデルの設計を担当。入社以来、長きに渡りボール開発に携わる「ボール開発」のスペシャリスト