VOICE B

Special interview FROM TOUR

VOICE 1

清水 拓市

技術開発部 解析評価技術開発ユニット

「ボール初速をコントロールする、新たな発想です」

—埼玉県秩父市にあるブリヂストンのテストセンターでは、どんなことを行っていますか?

私は入社以来、ゴルフボールの「評価」を担当しています。開発中のボールや完成したボールを、ショットロボットを使って、さまざまな条件の中でどのように飛ぶのかを実験します。またショットロボットだけでなく、プロをはじめとするゴルファーの皆さんとのヒューマンテストも行い、その中で、ボールに求められている性能をヒアリングして、それを開発チームに受け渡すのが主な業務です。例えば、プロがボールに求めているのは、「飛ぶこと」。でもそれはは当たり前のことで、さらに弾道をコントロールしたいので、「ボールを操作する、止める」という性能です。「飛ぶこと」と「止まること」は相反する性能ですが、それを両立できるボール開発がテーマになります。

—開発中の試作ボールは無数にあると思います。その中で製品化する決め手はありますか?

ツアーボールの場合はやはりプロからの評価ですね。プロが使うツアーボールは、トーナメントの試合で使われて、性能を発揮できないと意味がないですから。ショットロボットで試打計測してどんなに飛んで止まるボールができても、やはりプロが打ったときの打感や飛び姿を含めて、どういう評価になるのか。それは実際のトーナメント試合環境で使わないとわからないところがあるので、とても重要視しています。新たに発売になる『TOUR B X/XS』に関しては、タイガー・ウッズ選手の意見がとても大きかったです。彼は感性も別格で、ほんの少し材料や構造を変えても、その微細な違いを感じて、これは良い、これはダメとはっきり言われます。彼と契約して、そのフィードバックを得られたことは、開発にとって大きなメリットにもなっています。

—新しくなった『TOUR B X/XS』の性能について、教えて下さい。

プロは、4日間わずか1打の差で優勝を争うシビアな環境で戦っているので、特にグリーン周りのコントロール性能にとてもこだわります。我々としては以前から、コントロール性能を向上させるために、より強いスピンがかかるツアーボールを開発してきたのですが、そこだけではないという声がプロからも出てきました。それが新しいTOUR B X/XS開発の発端になりました。もちろん、スピンがかかること自体はツアーボールにとって、重要なのですが、緊張する場面や、難しいピンの位置の場合、「よりボールの勢いを殺したショットが打ちたい」というニーズが出てきました。グリーン周りからのアプローチショットは、出球が強くキャリーが出てしまうと、いくらスピンが効いても、ピンに寄せることができないんです。スピン性能の満足度が非常に高くなってきたので、我々もその先の技術を考えなければいけない。そこで新たに考え出したのが「スピードコントロール・テクノロジー」です。

— スピンで止めるだけでなく、スピードをコントロールする、ということですね。

グリーンまわりの短い距離を狙うショットでは、今回の新しいカバーがショットの衝撃を吸収し、ボールがゆっくり飛ぶようになります。つまり、ボールのスピードである「初速」を抑えてくれるので、思い切って打っていける。しかし、ドライバーやアイアンのような長い距離を出すショットでは、ボールのエンジンでもある高反発のコアが性能を発揮し、初速を上げて飛距離を伸ばしてくれます。スピンだけでなく、ショットに応じて初速もコントロールできることで、よりプロが求める完成度の高いツアーボールができあがりました。
タイガー・ウッズ選手もとても気に入ってくれて、本人にテストに持っていった際も「(新しいTOUR B XSに)すぐに変えたい。いつから試合で使えるんだい」と、向こうから前のめり気味に聞かれるほどでした。実は契約外のプロからも、ボールを試してみたいという話もきています。プロから評価されるのはとても嬉しいことですが、実は、ここがダメ、と課題を与えられるのも大切なんです。次の開発につながりますから。ボールが良いと言われると、次のモデルはどうしようかな・・・と考えてしまうのが、我々の仕事の難しいところですね(笑)。

PROFILE

清水 拓市 プロフィール
2004年ブリヂストンスポーツ株式会社入社 技術開発部 解析評価技術開発ユニット 所属入社以来、ボール開発に携わり、約5年半アメリカのテストセンターでの勤務も経験。
日米多くのプロからの信頼も厚い「ボール評価」のスペシャリスト