INSIDE STORY

INSIDE STORY Vol.1

14年間続いた、
クラブを通じての会話

国内で、そして世界で、ずっと戦い続けてきた宮里藍プロを、クラブづくりを通して支えてきた岩出浩正が、長年にわたる彼女とのクラブ開発について語る。

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ブリヂストンスポーツ株式会社
クラブ評価ユニット 課長

岩出 浩正

宮里優作のテストに、ゴルフクラブ評価担当者として立ち会った時、初めて宮里藍に出会う。
プロ転向当初から海外ツアーを目指していた宮里藍のゴルフクラブのサポートをする。
宮里藍の永遠のテーマである「飛距離アップ」のために、ともにテストに取り組み商品開発へのフィードバックを行う。
宮里優作のテストに、ゴルフクラブ評価担当者として立ち会った時、初めて宮里藍に出会う。
プロ転向当初から海外ツアーを目指していた宮里藍のゴルフクラブのサポートをする。
宮里藍の永遠のテーマである「飛距離アップ」のために、ともにテストに取り組み商品開発へのフィードバックを行う。
Chapter 1
アメリカ参戦を
視野に入れた
飛距離へのこだわり。

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宮里藍との最初の出会いは、お兄さんの宮里優作選手のクラブテストで仙台を訪れたとき。彼女が高校2年生の時です。その翌年、2003年の日本女子アマで勝利すると、彼女にもクラブテストをしてもらうことになりました。彼女とのクラブ開発の関係が始まったのはそれからです。
彼女のクラブに対しての要望として終始一貫しているのはドライバーの飛距離。プロデビューしたときからアメリカに行くことを視野に入れていて、海外の試合で勝つためには飛距離が必要だということを予測していたのでしょう。
ただ、彼女は高校生のころからほぼパーフェクトにインパクトをしており、クラブのポテンシャルを100%引き出している印象でした。そのうえでさらに飛距離を伸ばすということは、私にとって非常に困難な課題でした。低スピン、高打ち出しで、打点のずれもまったくないとなると、どうやってこれ以上、彼女の飛距離を伸ばせばいいのか本当に悩みましたね。ただ唯一、改善点としてあったのはヘッドスピードをさらに上げるということ。ヘッドスピードを上げれば、ボール初速も上がってさらなる飛びにつながりますので…。そのために低スピン、高い打ち出し角という点は踏襲しつつ、クラブヘッドの機能やシャフトのしなるタイミングなどを考慮し、振り心地がよくてタイミングを合わせやすいものに調整をしていきました。

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 世界で戦うために、ドライバーの飛距離の次にテーマになってきたのは、長いラフ対策とアイアンの距離感や正確なスピンコントロールでした。そこで、アイアンやウエッジにも、いろいろな工夫が求められました。アイアンは向こうの芝に合わせて「抜け」をよくするようにソール形状にも工夫を凝らしました。ウエッジに関しても、打感などを彼女の好みに合わせるために、形状が決まるまでは試行錯誤を繰り返しましたね。

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Chapter 2
比類のないショット精度と
極めて繊細な感性。
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 彼女は2010年に勝利を重ね、結果、世界ランキング1位に輝きますが、実はその年は最初からいけそうな気がしていたんです。毎年、シーズン前にテストをしているんですが、その年はショットがキレていて、表情にも自信が表れていました。
また、アイアンを「TOURSTAGE V-iQ FORGED 2」から「TOURSTAGE X-BLADE GR」へと少しブレードが薄いタイプに変えたこともあり、ショットの精度はさらに高まりました。もともと彼女のショットの精度はすごいもので、ドライバーのテストで5球打ったら、5個のボールがフェアウェイに1メートルおきにきれいに並ぶほどなんですよ。また、新しいユーティリティをテストしてもらったときなんですが、「このユーティリティは今のクラブと比べて3ヤード飛ばないのでダメです」と言われたんです。そこで、打ち比べてもらったら、本当に3ヤード差がつきました。そして、もう1球打ってもらったら前のボールに当たったんです。トラックマンの画面を見ながら寒気がしました。実はそういうエピソードは、ほかにもたくさんあるんですよ。

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 特にレインボーカラーのシャフトのドライバーを特別仕様で発売したときのエピソードは忘れられません。シャフトのカラーリングをレインボーカラーで発売するということがすでに決まっておりまして、彼女にそのシャフトを事前にテストしてもらったんです。もちろんプロトタイプになりますので、テスト段階はレインボーカラーではなく、黒に仕上げたものを使ってもらっていました。結果、プロトタイプをとても気に入ってもらえたので、塗装し直したものをテストしてもらったところ、「このシャフトは違います」とすぐにダメ出しをされまして…。
シャフト色が異なるだけで、中身はまったく一緒なんです。
いろいろ調整をしてテストをしてもらっても彼女からのOKは出ませんでした。彼女が使っているということで売り出すクラブを、まだ彼女が使っていないとなったらメーカーとしても大問題ですから本当に困りました。それで、よくよく素管を見たら、プロトタイプと比べてレインボーカラー分の塗料が重なる分、約1~2グラムくらい重かったんです。そう、わずかな塗料分です。本来はそこまで考慮しないんですけど、その点を改良したらようやくOKがもらえたということがありました。
実はこのシャフトを数年ぶりに色をわからないようにして、ほかのシャフトと一緒にテストをしてもらったんです。そのときに「あ、このシャフト、懐かしい!」ってすぐに言い当てました。もう、笑うしかありませんでした。

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Chapter 3
ゴルフ界にいくつもの
革新をもたらした存在。
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 この14年間を振り返ってみると、彼女がゴルフ界に与えた影響はとても大きいと思います。女子プロの注目度は一気に上がり、試合数、ジュニアの競技人口も増え、ギャラリー層が変わり、女子プロゴルフ界は大いに盛り上がるようになりました。

マーケットのほうに目を向けても、ゴルフ用品の広告で女子プロを起用するということは、彼女の登場以前には無かったと思います。しかも、男子用クラブの宣伝に起用されて売上を伸ばすなんていうことは考えられませんでした。ゴルフ界において、彼女はまさにイノベーターと言える存在でしょう。

 もちろん彼女は、私自身にも大きな影響を与えました。クラブづくりにはきちんと誠心誠意、魂を込めて取り組まなくてはならないと痛感したのです。やはり、自分のつくったものが世界的なトップアスリートの試合結果に少なからず影響を与えてしまいますから…。
また、そのように真摯な態度で仕事に臨むには、彼女は非常にやりがいのあるプレーヤーでもありました。
「こういうふうにしたいから、こうしました。」というクラブのつくり手の意図をすぐに理解して、的確に応える能力があるんです。テストで2発くらいパッと打ってみて「これはこういうクラブだからこうです」とか、「これはダメです」「これはいいです」「使います」とか、評価をはっきりと言ってくれます。意図をちゃんと伝えていないのにクラブを通して会話ができると言いますか…。そんな彼女とのクラブを通しての会話は、いつも私のモチベーションを高めてくれていました。

今は本当に感謝の気持ちでいっぱいです。今後も彼女にはさまざまな分野で活躍してもらいたいと思います。

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